ぼくたちは夜の海をよく見にいってた
砂浜ではなく防波堤で、うねる波をただ眺めるために


僕は暗くて静かな場所が好きだ
じぶんの指先さえ見えなくなるような漆黒が好きだ
反射音の一切無い、じぶんの吐息すら耳鳴りにかき消されるような静寂さが好きだ


じぶんの存在の一切を消失する錯覚にぼくは深くリラックスを感じる
できることなら
この肉体からも
この自我からも
すべてから解放されたいと願う


例えば死はもっともその理想に近いかもしれないが
べつに僕らは死にたいであるとか
死のうよとか
そんなつもりではなくて


どちらかというと
もっとこの世界のなかで
よりふさわしいものになりたいという
そういう欲望を感じていたように思う


「海」とか「風」とかは
タイミングさえ合えば、僕らにそんな幻を届けてくれる
「海」とか「風」とかは
「万能の存在として祝福されたじぶんの幻を見る」には
とても入り口としてふさわしいように感じるんだ